構造計算ねつ造について

当地の情報雑誌の編集長から日本の構造計算ねつ造事件に関しての取材申し込みが有った。 「同様のことがアメリカでは起こりえるか?」が聞きたいらしい。 

以前、ノースリッジ地震の時、日本から建築構造の専門家が何人も視察に来て、メディアからの質問に対し、「これは品質管理の問題、人災だ! このようなことは日本では絶対に起こらない!」と豪語していった。 しかし、翌年神戸で大地震が起き、ご承知のような大惨事になってしまった。 しかも、今回は構造計算のねつ造事件だ。

まちがっても「このような事はアメリカでは起こりえない!」などと発言するのは止めよう!と、自分に言い聞かせている。 でも、心の底では「アメリカでは起こりえない」と思っている。 しかし、雑誌に出てしまうとまずいので、この「ひとりごと」で考察してみたい。

まず、当地の構造設計者がコストダウンの圧力を受け、従わなければ仕事を出さない・・・と、言われる状況はあるだろうか? まず、コストダウンを望まない施主はいないだろう。 デベロッパー主導の工事では「あの構造設計事務所はコンサーバティブで建物構造に金がかかる・・・」との話もでるだろう。 しかし、どんなに悪徳なデベロッパーでも自分に責任がかかったら大変なので、その構造設計事務所の Professional Liability の保険を確認した上で発注すると思うので、構造設計事務所としては自分の保険で責任を取れないことはやらないだろう。(注:Professional Liabilityの保険はErrors and Omissionsと呼ばれ、設計ミスに対してのカバレッジで故意にねつ造した計算書による損害賠償はカバーしない。)

また、ゼネコンが設計行為を行うとProfessional Liabilityの保険料が跳ね上がってしまう。 設計と施工の相互チェック機構がないと、保険会社としてのリスクが大きすぎるからだ。 したがって、設計施工の契約と言えど、設計事務所は別会社として独自の責任を持たせる契約になっている。

次に自分のライセンスを剥奪されるほどの犯罪を日常的に行うだろうか? 日本の一級建築士は裾野が広い! 建設会社の工事責任者も一級建築士なら意匠設計者も構造設計者も一級建築士、田中角栄だって一級建築士だった。 つまり、首の据え変えはすぐにできそうだ。  しかし、当地のプロフェッショナル・ライセンスは日本の技術士に相当する資格で、大学で勉強し、実務経験を積んで、試験を受けて得られるもので、そう簡単に手放さないと思う。 特にプロフェッショナルは設計事務所に勤務していたとしても、自分のライセンスを頼りに生きている人々なので、事務所の為に犯罪をおかすことはやらないだろう。 (それ程忠誠心も無いし・・・・。)

最後にゼネコンの選定はあくまでも完成した設計図書を入札書類として行うので、コスト・オーバーは入札時点で判明する。 厳しいネゴでデベロッパーがゼネコンとの契約交渉を行い、目標契約額を減らしても、その基準は入札時の設計図書である。 したがって、万が一ゼネコンがその設計図書の内容を変えてコストダウンを図ったとしても、それはゼネコンの責任になる。 かしこいゼネコンはその減額案に対して設計者の承認を申請し、この時点で今度は責任が設計者に戻る。

建築確認申請について述べると、一言「非常に細かい審査」だ。 市から外注されることもあるが、これまでの経験では外注の方が審査はより厳しくなる。 また、設計変更もすべて追加審査にて行われるので、上記のゼネコン主導の減額案も再度建築確認審査を受けなおすことになる。 さ ら に 、確認済みの図面には「建築確認申請の許可は設計内容の合法性を保証するものではない」との責任逃れのスタンプが押されるのが常だ。

性悪性の社会ゆえ、だれも責任を取りたくない。 構造設計の図面には「設計図書通りに工事できない場合にはすべて事前に承認をとること。 構造設計は施工上の問題の責任は取らない」等々記載されている。 

先日やった既存建物の改修工事では構造設計の寸法さえ「意匠図を見ること」として、記載されてなかった。 もちろん、意匠図では「既存の寸法を確認すること」としている。 その図面をベースに建設業者が外壁パネルの製作図を作成し、承認を求めてきたが、その図面にはなんと、「既存の寸法を確認すること」と書いてあった。 今の当地の建設ブームにより、皆忙しすぎて「責任が発生するようなことはしたくない!」というのが本音かもしれない。

心の底で「アメリカでは起こりえない」と思っている本音は、そんな膨大な責任が発生するようなことをやるより、いかに責任が無く、もうかる話を追っかけたい人が多いからだと思う。